札幌地方裁判所 平成10年(わ)664号 判決 1998年11月06日
主文
被告人を懲役一年に処する。
この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
被告人を右猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、札幌方面北警察署から平成八年八月一〇日付けで札幌地方検察庁に事件送致された自己に対する道路交通法違反被疑事件につき、自己が同事件の発生時間帯である同年六月二一日深夜には同事件発生場所以外の場所に現在していたと仮装するビデオテープをねつ造させることを企て、同年八月二七日ころ、小樽市銭函二丁目二番五号JR銭函駅前広場において、A、B、C及びDに対し、「アリバイビデオ撮るから協力頼む」旨申し向け、さらに札幌市手稲区《番地略》F方前付近路上等において、E、右A、右B、右C及び右Dの五名に対し、「これから六月二一日のアリバイビデオを作るから、時期がばれないようにしてくれ」旨申し向けて右五名にその旨決意させ、よって、右五名をして、共謀の上、そのころ、右Aが画像に映る日時を右道路交通法違反被疑事件発生時刻ころである同年六月二一日午後一一時三〇分ころに設定したビデオカメラ(札幌地方検察庁平成一〇年領第九五七号符号一)を使用して、約一時間にわたり、右F方前付近路上における被告人及び右五名によるインラインスケート遊技状況並びに同区《番地略》右C方居室内における被告人及び右五名の歓談状況等を撮影させて、あたかも右道路交通法違反被疑事件発生当時に被告人が事件発生場所以外の場所に現在したかの如く装ったビデオテープ一巻(平成一〇年押第二五号の1)をねつ造させ、もって他人の刑事事件に関する証拠を偽造することを教唆した。
(証拠)《略》
(量刑事情)
本件は、被告人が、いわゆる集団暴走行為の嫌疑により保護処分を受けることなどを恐れ、友人らに働きかけて、アリバイ証拠となるビデオテープをねつ造させたという証拠隠滅教唆の事案である。
被告人は、自らの不法な行為にかかる当然の処分を逃れるために、新たに友人らを巻き込む本件犯行に及んでいるのであって、その動機は、身勝手極まりないとともに、規範意識の欠如が顕著である。また、被告人は、躊躇する友人らに執ように働きかけて右ねつ造を決意させるとともに、虚偽のアリバイであることが発覚しないよう積極的に具体的指示を与えるなどして、巧妙にねつ造されたビデオテープを作成させているのであるから、その態様も悪質である。そして、父親らを通じて、右テープを家庭裁判所に提出させるなどし、結局、右集団暴走行為を理由とする中等少年院送致決定について保護処分取消決定をいわばまんまと騙し取っているのであるから、その結果も重大であるといわざるを得ない。被告人が、犯行後、右ねつ造の嫌疑が高まるや、処罰を免れるために、友人らに、テープの撮影日付を設定したのは被告人自身であり、虚偽の日付になっているとは知らなかった旨捜査機関に供述するよう工作していることも併せ考慮すると、被告人の刑責は重いというべきである。とりわけ、被告人の犯行が、適正な司法判断の基礎となる証拠を積極的に偽造するよう教唆したものであり、これにより、前記のとおり重大な実害が生じていることを重視すれば、被告人に対しては、実刑をもって処断すべきことも十分考えられるところといわなければならない。
しかし、他方において、被告人は、犯行当時一七歳の少年であって、行為の意味や影響ついて十分考慮し得ないまま犯行に及び、被告人のえん罪を願望する父親が本件ねつ造ビデオテープをそれと知らなかったとはいえ、被告人を救う手段としてなんとか利用しようとしたことと相まって、その後の推移は被告人の予想を超えた事態にまで進んでしまったという面がない訳ではないと認められる上、相当期間身柄を拘束されたことなどにより、自らを振り返る機会を得、現在では、犯行のもたらした結果の重大さに思い至り、これを強く後悔して、反省の態度を示すに至っていること、被告人は、現在でも二〇歳と若年であって、十分更生の可能性があると考えられること、当然のこととはいえ、一旦受領した保護処分取消決定に基づく少年補償金を返還しようとし、制度上これが困難であることが分かると、全額を贖罪寄付していることなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで、当裁判所は、以上の諸事情を総合考慮し、被告人を主文の刑に処した上で、今回に限り、その刑の執行を猶予するとともに、被告人の更生に万全を期するため、その間、被告人を保護観察に付するのが相当であると判断した。
(検察官山下善弘、同佐藤 進、私選弁護人奥泉尚洋(主任)、同川上 有各出席)
(求刑-懲役一年)
(裁判長裁判官 矢村 宏 裁判官 登石郁朗 裁判官 田中幸大)